気 ま ぐ れ 日 記   特別編 part2

salon d'Orange in nagoya

5〜9,may,2007

David T.Walker live at Blue Note Nagoyaをめぐる旅





 


6.may sun

10:00am

 半分眠りながらTVを眺める。憲法関係の番組多し。なんとなく気になったのは、作家の平野啓一郎、三輪明宏、瀬戸内寂静の対談。

 平野作品は、デビュー作の『日蝕』が新人の中では群を抜いて才能を感じたので少し読んだ事がある。三島の再来と評されていたけど、三島にはちょっと及ばない。あの作品の特異性は語彙表現と、錬金術師という題材にあったのだけど、内面の描写などに少し実力不足を感じた。三島の凄さは人間の内面の描写力だから。

 三輪明宏はとても良い事を言っている。

 平野啓一郎が「人から難しいと言われる事で躊躇を感じるけれど、三輪さんはステージの内容を聴衆に合わせるか?」との問いに、「絶対に合わせない。それは失礼な事で、自分の世界を人が理解できないだろう、などと考えて変える事はしない」と発言したのがとても印象に残った。

 瀬戸内寂静は…。こういう人は文化人でも宗教家でも無い。エセの極地だ。吐き気がした。脱俗の僧侶は世俗を捨てるのが筋だ。作家は世俗の中で書くからこそ苦しみが有り、そこから逃げるのは往年の大作家の様に命がけなのだ。それが筋ってもんだ。

 筋を失った人間は醜い。

 現代ニホンを嘗て無く醜い、と瀬戸内寂静は今TVで評しているが、皮肉な事にそれはこういう人物のまるで合わせ鏡である。

 現代ニホンはおまえの内面世界の反射である事に気付け。 

 せめて、こういう人には似ない様に努力する事だ…。


2:00pm

 結局いつも通り、昼過ぎてはっきり目が覚めシャワーを浴びたりして、ぼちぼち散策する事に。今日は楽器店巡りの予定。

 日曜なので少しのんびりして閑散としている官庁街を通り、街中心部方向に歩いていくと、繊維問屋街に遭遇。スーツの仕立てや、ディスカウントのお店がずらりと並んでいる。どこかレトロな雰囲気だ。

 山本屋総本家に入り、名物の味噌煮込みうどんを注文。お店はさすがに老舗の風格と気品がある。だいたいうどんを食べるのに、前掛けが用意してあるのも珍しい。そばがうどんのつなぎに使用してるらしく、「そばアレルギーはございませんか?」と聞かれる。 

 味噌は八丁味噌で、僕は赤味噌系が好みなのでとても美味しかった。普通の人には濃い味かも知れない。

 工夫を感じたのは麺で、煮込み麺なのに非常に腰のある麺だ。麺の断面を眺めると、外側に味噌が染み込んでいて中心は硬く芯が残っている。パスタで言うアルデンテ。こういうシンプルなものは、何気無い工夫のマッチングが命なので、やはりそれが絶妙なのが老舗の凄さだろうね。満足した。


3:00pm

 街中心部はさすがに混み合っている。食べ物屋さんの量の多さに驚く。それもかなり工夫を凝らしたコンセプトの店が多い。甲冑が仰々しく飾ってあって、外にレセプト要員が立っているクラブの様な雰囲気の店があるので、何の店だろう?と思ってよく見ると鮨やバーのある会員制の店だった。『刀 katana』という店名だ。さすが関白太政大臣が居た街である。。

  …と歩いていると、石橋楽器店に到着。

 東京ではよくお世話に成ってたお店だけど、店員さんの感じも良い。名古屋は何処の店員さんも皆、サービス精神がとても良く、気使いがとても良いと思う。滞在中、嫌な気分になる事は一度も無かった。

 隅から隅まで楽器を眺め、気になったギターを試奏する。

 まずは高額商品でガラスケースに入ってるGibson birdland。86万円なり。birdlandはDavid Tの永年の使用ギターだ。色がナチュラルのbirdlandは珍しく、しかもGibsonの日本代理店が現在無くなっている状態の為、入手困難に成りつつある。

 Fenderの真空管アンプに繋いで試奏。音は…。まずネックはとても弾き易い。材のせいか少し固めの現代的な響きがする。それにしても実感したのは、birdlandを弾いたからと言って、あのDavid Tの音に成る訳では無いという事…。情けない話でもあるけど、楽器に頼ってはいけないという事だ。David Tは何を弾いてもあの音を出すに違い無い。後日、まさにそれを現実に体感するのだけど‥。

 さすがフルアコだけあって、少しvolをあげるとすぐにハウる。でもやはりウォームな良い音だ。しかし、、86万円。。ま、新品のフルアコでは普通の値段なんだけどね。

 次に、やはりガラスケースから出してもらって、黒のGibson LesPaulの57年のリイッシュ。36万円なり。

 ネックがカマボコ系でかなり太い。音はやはり往年のあの音。渋いトーンが出る。自分のLesPaulと比べて、確かに渋みがあるのだけど、LesPaul全般に言える重さと、操作性、塗装の圧さで、結局手持ちの方に軍配が上がる。

 次に、ずらーりと店頭に並んだ中の、赤いトラ目のPaul Read Smith。41万円なり

 うーん、ギターの完成度としてはこの3本の中ではこれだな。音のバランス、デザイン、操作性、汎用性、どの観点からも絶品。音も思った以上にギターの本体の鳴りが、ダイレクトに出ている。

…しかし、、、。これは非常に素晴らしい出来のギターなのだけど、楽器というものは難しくて、音楽的に良い音、というのは楽器的、音響的に良い音、とは必ずしも一致しないのである。

沢山のギターリストがこのPRSを弾いてるけれど、このギターで歴史的名演奏というものは、未だに奏でられた事が無いのである! その理由はミュージシャンなら薄々解ると思う。アコギではSomogiというやはり絶品の高級ギターがあるのだけど、あのギターも、何かそういうところがある。

 逆に楽器的に間違った音でも、音楽的に素晴らしい音、というものは存在する。

 今のPRS使いの名手ではSantanaなどが居るけれど、Santanaが音楽的に最も素晴らしいプレイをしたのはGibson SGやYamahaのSGだ。彼はあの頃の音をPRSで超えては居ない。最近Santanaが最も良いプレイをしたのはLauryn Hillのバックで弾いたガッド弦のアコギだったりする。

 音楽的な音。

 これは非常に難しい…。

 楽器のベクトルと、音楽のベクトルは違うのである。楽器は音楽の道具であるにも関わらず…(!)。

 …でも余裕があったらこのPRS、、買うだろうなぁ(笑)。だってゴージャスでカッコイイもの。



5:00pm

 ネットで知ったドクターmusicという真空管アンプの専門店に行く。電車を乗り継いで、田舎な景色の駅に降りる、何やら倉庫やら工場やらが並んでいる。住宅地にも変化してきたと思しい、かつての町工場の中に、かなり地味な店構えで営業している。

 しかしこういう店は、実は誠実な名店が多い。

 全国で誰でも名前を知っているブランドの東京の楽器製造業の会社ですら、この様な風体である。工場。電気関係の良いテクニシャンはこういう処に潜んでいたりするのだ。

 色々とお話を拝聴しつつ、試奏開始。真空管のコンボで、持ち運びが楽で良いクリーントーンのアンプを捜しているのだけど、中々無い。良いものは妙に重かったり、持ち運び便利なものは、音が物足りなかったり…。ネットや雑誌で色々調べるが、こればかりはスペックでは全く解らず、使用してみないと何とも言えない。

 しかも、お店でちょろっ、と音出しても、本当の実力は推し量れないところがあるから難しい。。

 でも一応トーンは確認できるし、ステージの状況などをイメージして多分そうだろう‥という見当をつける程度は出来る。

 まず、Rivera clubster25

 これはもうFender super champの音そのもの。ただ使い易い様な工夫が凝らしてある。重さも割と軽い。しかし、クリーントーンはChampもそうだけど、ジャズ系には向かない。どうしても少し歪んでしまう。西海岸風な音楽のちょっとしたギターを入れるには最高なのだけどね。歪みは割りと良いと思う。

 次、Boogie F30

 Boogieにしては割りと安価な、でもきちんとした真空管アンプ。音も思った以上に良い。クリーンは30Wだから流石に完全なクリーンは無理がある。歪みは最近のBoogieの歪みの音がそのまま出る。重さは少し重いけれど、持ち運べない程では無い。

 次、中古の90年代のBoogie mark1

 こちらは当然、往年のBoogieのあの音。60w-100wの切り替えだけあって、クリーンも非常に余裕がある。暗さと深みがあり中域が強い、あの頃のBoogieの音だ。これはジャズにもある意味向いてる。しかし当然重い。。昔、Boogieを持ち運んでいて非常に苦労した経験がフィードバックして躊躇してしまう。。このBoogieはスピーカーのせいか、それでも割りと軽めなのだけど。。

 次、Fender Hot rod deluxe

 これは少し大きいので今回のコンセプトから既に外れるのだけど、しかし、、、音は、前の3つと比べて一番良い。しかし、クリーントーン云々では無い。反応の早さ、音抜け、音の芯、音の輪郭、これが明確で実に気持ちいい。40wだが歪みポイントが微妙で、クリーンはあまり期待できない。

 このシリーズの少し出力の大きい、Hot rod devilleだとクリーンはかなり良いと思う。

 っで、、実際、David Tは今回のツアーでそれを使用していた。さすが御大のお眼鏡は鋭く正しい。。

 最後、Fender '65 Deluxe reverb

 リペアマンさんに伝えた僕の願望に最も近いのはこれだった。ジャズ系に向いていて、持ち運び便利。ジャスト、これ。ただこれも完全なクリーンでは無く、やはり少しコンプレッションがかかる。でもそのトーンはウォームで良い。まさにこれは音楽的に良い音だ。音量は22wなので、さすがにドラム入りのバンドだとちょっとキツイ。4beatものだけをやるのならこれで良いけどね。うーむ。。。

 他にも、Matchless,badcat,など気に成るアンプもあったけれど、切りが無いので、ここで試奏終了。色々と試奏させて貰い興味深いお話も聞けてとても良かった。プロミュージシャンでも真空管アンプはメインテナンスに苦労するので、この店に出入りされてるとの事。実際ここ以外で、きちんとした真空管系のリペアをしている店が全国を捜しても無いのである。全くギター弾きには非常に有り難い店である。来て良かった…。

 お店を出ると外はもう真っ暗。



8:00pm

 街中心部に戻り、Blue Noteの場所をチェック。ライブもついでに観たいと思ったけど予約売り切れ。宮沢和史の多国籍バンドの出演だった模様。それ、聴きたかったなぁ…。予約しときゃ良かった。

 で、何か食べようとうろつく。餃子の専門店という屋台風なカウンターのみの小さな店に入り、ビールと紫蘇餃子、海老餃子を注文。美味しかった。

 そして、そこの近くのSuntory jigger bar silk roadというバーに入り、アンプについて考え事をしながら和むことに。

 店内は落ち着いたムードで、カウンターでゆっくりする。マティーニとフルーツを注文する。店員さんと名古屋界隈の事を色々話す。昼に見た繊維問屋街は、昔よりも少しさびれているらしい。昔はオーダーでスーツを仕立てる人が、隣接する官庁街に多く賑わっていたらしい。

 店員さんの感じは、やはり良かった。

 カミカゼを2杯飲みつつ、今日の楽器のインプレをまとめる。

12:00am

 ホテルへ向かい歩いていたら、飲んだ後で少しお腹がすいたのでcoco壱番屋で、野菜カレーを持ち帰りで買ってホテルに到着。

 飲んだ後にカレー‥というのも変な気もしたけど非常に美味しかった。シャワーを浴びてごろごろしてたら、歩き過ぎて疲れたせいか、割りと早く眠る。




next マ




BACK